
日本で唯一のファッションの批評誌第7号の特集は「ファッションとジェンダー」。テクノロジー、身体、ファッションデザインとジェンダーとの関係を、インタビューや論文、展覧会・書籍紹介などを通して考察。また、『ファッションと哲学』(フィルムアート社)の共編者、アネケ・スメリクの来日講演を特別掲載。
特集:ファッションとジェンダー
introduction
interview
長見佳祐(HATRA)
長谷川愛
市川渚+檜山敦
paper
原山都和丹「手編みのユニフォーム―シェットランドのガンジー」
アネケ・スメリク「フラクタルの襞―イリス・ヴァン・ヘルペンのファッションデザインへの新しい唯物論からのアプローチ」
難波優輝「身体のないおしゃれ―バーチャルな『自己表現』の可能性とジェンダーをまとう倫理」(公募)
増永菜生「『イタリアらしさ』が生まれるとき―2010年代後半のドルチェ&ガッバーナのショーを例に」(公募)
小田昇平「転移をうみだすアクセサリ―ジンメル、ラカン、バルト、メゾン・マルタン・マルジェラのアクセサリをめぐって」(公募)
工藤源也「フセイン・チャラヤンのファッション・デザインにおける身体の相補的関係―モビリティの発達と私たちの身体のゆくえ」(公募)
international perspective
展覧会紹介
書籍紹介
critical essay
増野朱菜「サイボーグはウェディング・ドレスの夢を見るか?―サイエンス・フィクションがサイボーグに女性性を与えるとき」
afterword
introductionより
昨今、アカデミズムのみならず社会全体において「ジェンダー」に関するトピックがさまざまに議論されています。いわゆるジェンダー論やフェミニズムに加え、クィア・スタディーズや男性学といった学問分野が人口に膾炙しはじめているといえるでしょう。言うまでもなく、ジェンダーの問題にはファッションも大きく関わっています。たとえば、私たちが他者のジェンダーを判別するとき、その根拠の多くはファッションにまつわるもの—髪型やメイクも含めて—です。前を歩いている人がスカートをはいていれば、その人を「女性」だと認識する場合が多いでしょう(それが適切かどうかは別として)。
スカートが女性というジェンダーに結びつけられている、というのは言わずもがなです。歴史を振り返らずとも、スカートの構造を知らずとも、子どもですらそう思い込んでいます。しかしながら、スカート(=衣服)が私たちにとってどのような意味を持つのか、換言すれば「人はなぜ衣服を着るのか」という問いの答えは、ジェンダー論やフェミニズムの議論だけを追っていても考えることができません。それゆえ、ファッション研究の側からもジェンダー論にアプローチする必要があるのです。そうしなければジェンダー論は進展しないと言っても過言ではありません。
とはいえ、今号の特集のみでファッションとジェンダーのあらゆる側面を網羅することはできないので、いくつかの視点を提供できればと考えています。具体的に言えば、これまでの号でもずっと通奏低音として響いているテクノロジー、衣服と切り離すことのできない身体、世の中に商品として流通する衣服を制作するファッションデザインという行為など、いくつかのトピックとからめながらジェンダーについて考察するための契機が散りばめられています。