「死にたい」に、代わる言葉が必要なんだと思う。
一つ楽しめることを知ると、一つ人に優しくなれるよ−。自身の携帯電話の番号を公表し、“死にたい人”の話を聞き続けている著者が、Twitterに書き残してきた膨大な「死にたい」に代わる言葉を厳選して収録する。
2012年より、自身の携帯電話の番号090-8106-4666を公開し、「いのっちの電話」として、現在も年間平均1万人を超える「死にたい人」の話を聞き続けている著者、坂口恭平。
そんな著者が、死にたい人からの電話を受けた後、たびたびTwitterで記してきた、そして今も毎日書きまくっている、言葉たち。
「死にたい」に代わる言葉を探す一連の運動の軌跡を厳選した言葉集。
〇はじめに
こんにちは、坂口恭平です。僕のことを知らない人もいると思うので、なんで帯に自分の携帯電話の番号まで公開しちゃって、この人大丈夫かなと思ってらっしゃる方もいるかもしれませんので、少し自己紹介をしましょう。
私、坂口恭平は、普段は本を書いたり、絵を描いたり、歌を歌ったりしてます。一応、それを生業にしてます。さらに躁鬱病というものを患っているので、最近では1ヵ月に25日間は元気いっぱい楽しく生きてますが、5日間はありえないほどぐったりして布団の中で寝込み、毎日死にたいと感じ、本当に泣いてます。
しかも、そんな病気なのにもかかわらず、僕は自分で日常的に使っているiPhoneの電話番号090-8106-4666を公開しており、寝ている時以外はずっと、死にたい人からの電話を受けてます。最近では、「死にたい」と検索すると僕の電話番号がすぐ出てくるらしく、昨日は35件ほどかかってきました。毎日大体こんな感じです。1日30件ですから、1ヵ月で900人、1年で10000人の死にたい人からの電話を受けていることになりす。自分でも今、書きながらびっくりしてます。
自己紹介をしても、余計になにをしている人なのかよくわからなくなるかもしれませんが、僕は自分でも月に5日間、なぜか知らないけど、ま、理由は病気なので仕方がないのですが、理由もなく死にたくなり、さらには年間10000人の死にたい人たちの話を聞いてますので、もう毎日、なにを考えているかというと、人生で成功するとか、幸せになるとか、そういうことを飛び越えちゃって、どうやったら、死なずに寿命をまっとうできるのか、ってことなんです。もはやそれだけなんですね。
でも、そのおかげもあって、なんか知らないけど、死なずにそれなりに穏やかに過ごす、みたいな方法というか、コツみたいなものはつかんできたんですね。別に成功者でもなんでもないですよ僕は。ただ、死にそうなのに、死なずに済んでいるという意味では、結構な玄人だと自分でも思います。
僕は死にたい人からの電話を受けた後、たびたびTwitterでどうすれば死なずに済むかってことを書きまくってきました。今も毎日書きまくってます。この本はそんな膨大に書き残した言葉の中から、編集者が厳選してまとめてくれたものです。
あなたが死なずに少しでも気持ちが楽になればと願いを込めて。
短いですからきっと読みやすいです。
それでも危ないな、これはまずいなと思ったら、すぐ090-8106-4666まで電話してくださいね。
みなさんの健康をお祈りします。
2022年4月5日
毎日作品を作っている熊本のアトリエから
坂口恭平
〇坂口恭平(さかぐちきょうへい)
1978年、熊本県生まれ。2001年、早稲田大学理工学部建築学科卒業。
作家・画家・音楽家・建築家など、多彩な活動を行う。
2004年、路上生活者の住居を収めた写真集『0円ハウス』(リトルモア)を刊行。
2008年、それを元にした『TOKYO 0円ハウス 0円生活』(河出文庫)で文筆家デビュー。
2011年、東日本大震災をきっかけに「新政府内閣総理大臣」に就任。著書『独立国家のつくりかた』(講談社現代新書)を刊行し、大きな話題となる。
2012年より、自身の携帯電話の番号090-8106-4666を公開し、「いのっちの電話」として、現在も年間平均1万人を超える「死にたい人」の話を聞き続けている。
2014年『幻年時代』(幻冬舎文庫)で第35回熊日出版文化賞を受賞。
2016年『家族の哲学』(毎日新聞出版)で第57回熊日文学賞を受賞。
そのほか著書に、『現実宿り』(河出書房新社)、『苦しい時は電話して』(講談社現代新書)、『自分の薬をつくる』(晶文社)、『現実脱出論 増補版』(ちくま文庫)、『躁鬱大学』(新潮社)、『土になる』(文藝春秋)、『いのっちの手紙』(斎藤環との共著・中央公論新社)など。画集に『Pastel』『Water』(いずれも左右社)がある。
〇出版社: 東京書籍
〇ISBN:978-4-487-81609-5
〇ページ数:160
〇判型:四六変型判(180㎜*120㎜)/並製/1C