
カタリココ文庫12号。写真史上、稀にみる生き方を遂げた中平卓馬について書いた大竹昭子の随想録。中平は1960年代、「写真家になる」と自ら宣言することで編集者から写真家に転向し、同世代のカメラマン・森山大道にカメラの扱い方や暗室作業を教わり、ふたりはブレボケ写真という新しい概念を提唱します。しかし1973年以降、中平はブレボケ写真を否定し、対象をはっきりと写しとる「植物図鑑のような写真」を再提唱しはじめる。その実践に踏み切ってまもなく、中平は記憶喪失と言語障害を患い、社会生活は困難になり、かつてのように先鋭的な言葉で写真を論ずることはできなくなる。結果として、彼の写真活動はかつてないほど活発になり、2015年に77歳で他界するまで約40年にわたり、日々写真を撮ることのみに没頭した。
大竹昭子が著作『眼の狩人』のなかの「記憶喪失を生きる神話の人」と「中平卓馬の沖縄撮影行」、および前掲書の増補版として出した『彼らが写真を手にした切実さを』に収録した「中平卓馬の写真家覚悟」の三つの原稿に加筆し、再構成。タイトルは本人の発言からとったもので、中平と写真の切実な関係を感じ取れる1冊。