すべてのアウトサイダーへ贈る七月堂創立50周年記念企画第二弾。「場末」に生きる人たちやそんな人たちがつくる場所がたくさん登場するほの暗いなかでしか見えないくらい、けれど確かに存在する、ちいさなやすらぎの灯のような一冊。装画は前回の詩集『ふたりはひとり』につづき小川万莉子さんの描き下ろし
【著者コメント】
作品「場末にて」を書いたのは2019年のことです。大阪のとある小さな書店で開催された朗読会のために書き下ろしました。記念にするつもりでその店主を描きはじめましたが、次第に自分のこととなり、未来のこととなり、すべてのアウトサイダー、場末を支えるひとたちのための言葉になっていきました。朗読会当日、しずかに読み切ったときの気持ちはまだ覚えています。あの日から、4年。ようやく、詩集『場末にて』を完成させることができました。多くの人々の手に届くことを願っています。
作品です。場末にてひかる小さな明るみを表現してくださいました。
駅
彼は
うすい背中のひとなので
職場から
誰よりもはやく
家に帰るみたいだ
いつも歩きなので
駅に着くころには
埃っぽい風のなかである
ちょっとうつむきかげんの
ふうわりとした顔つきで
行きと帰りでは
気持ちに
ほとんど変化がないみたいだ
夕暮れの
あわい光のなかを
彼は歩いている
うすい背中のひとは
駅近くの和菓子屋に
立ちよっている
病弱の妻に
若鮎を買って帰るらしい
がま口を開けて
一枚いちまい
小銭をかぞえている
〇175mmx110mm 小口折り 帯付き
〇装画:小川万莉子
〇装幀・組版:川島雄太郎