
AIが高度な翻訳をしてくれる時代に、「それでも人間が翻訳をする」ことの意義はどこにあるのだろう? 私たちは言語とどう向き合うことになるのだろう? フランス文学の名翻訳者が、その営為の本質に迫り、言葉・文学・世界に思索をめぐらせる極上のエッセー。『翻訳教育』(2014年)を改題し、あらたに1章を増補した文庫版。
【目次】
まえがき
1 翻訳の大いなる連鎖
渚にて/光を放つ書物/世界文学の浜辺/うるわしのナンシー/ハツカネズミと訳者たち
2 翻訳家の情熱と受苦
猿と殺人者/同化効果/海のアネモネ/文学の生命
3 ロマン派の旗のもとに
完成一歩手前/翻訳開始直前/さらば不実な美女よ/しおれた花を蘇らせる方法/翻訳はわが作品
4 再現芸術としての翻訳
翻訳家ファウスト/翻訳家ベルリオーズ/再現芸術の道/ファウストとの別れ/歌とともに訳す
5 偉大な読者たち―マーラーと鷗外
二十一世紀の『ファウスト』/マーラーによる『ファウスト』/鷗外による『ファウスト』/「水到り渠成る」/豪快なあやまち
6 永遠に女性的なるもの?
タンホイザーあるいは暴れ振り子の物語/間に合わなかった男/ワーグナーと『ファウスト』、そして「舞姫」/ヒロイン像の変容/映画的演出/夢の翻訳
7 翻訳教育
ペダンティスム/世界通用の名/古仏語演習/愛情ある翻訳
8 合言葉は「かのように」
交響楽の喜び/コンフィデンス/ポスト・プロダクション/「かのように」の哲学
9 トランスレーターズ・ハイ
閉店のお知らせ/無我夢中/同時代の作家とともに/メランコリーを超えて/現代の百科全書
10 翻訳の味わい
バナナの味/語学と翻訳/バルザックの味/バルザックのさらなる味/「喜びに馬乗り為されよ」/わがバイブル
11 AI翻訳なんか怖くない
初めての体験/最短距離を飛べ/ちいさな王子たち/こんにちは、AI!
あとがき
文庫版あとがき